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せーなとアヤの、時を超えたかった…

「・・・・・・・・・。」

…目は驚愕に染まり、口は半開き。両足は動く事を忘れ、右手には見覚えのある糞デカイ鉈、左手はボコボコの金属バット。
そんな、同じく見覚えのある衣装に身を包んだ征菜の真上には元気玉のような太陽が照りつけていた。

「・・・・・・・暑い。」

時にこの衣装は、割と通気性がいい。しかしこの灼熱の太陽と風どころかホラすら吹く気すら失せるこの地では逆効果である。
それでもこのデカイ帽子は日光を防止するくらいの効果はある、帽子だけに。でも暑い。凄く。
ええ?ここがどこかって?砂漠?サバンナ?火星?グラウンドの真ん中?違うな、もう少し趣がある風景だ。それはな…




「・・・・・・・なんじゃこりゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」



…荒野の一角だよ。




……『我らが強者夢の跡』……
「………5キロは歩いたぞおい…」
…あれからどれくらい経っただろうか。
僕は家で珍しく洋画を見ていた、日曜洋画劇場ってやつだ、つまり夜だ。極普通の日曜日の夜だ。
しかし気付くとさっきの状態で、今は真昼間の糞広い荒野の真ん中を当てもなく歩いている。人どころか生き物すら見ていない。
最初はいつぞやみたいにトロイアのやった事だと思ったが、よく考えたらあいつはスノトレで踏みつけてボコボコにして捨てた。
次に途中で寝てしまって夢を見ているのかと思った。しかし夢にしては暑い。物凄い暑い。しかもさっき転んだ時は痛かった。
しかもしかも、僕は洋画は見ていたが西部劇は見てない。SF物を見ていた。しかもしかもしかもナギたんとだ、だが今ここにナギたんは居ない。つまりありがちな映画の中に入った説も成り立たない。
わけが分からない。それにこの服装だ、いつぞやのメリ○さんそっくりのあの衣装だ、違うの金属バット。やっぱりここはトロイが…いや、やっぱあれは壊したはずだし…



…それから更に10kmは歩いた気がする。
時間は太陽の傾きからすると4時間くらいだ。鉈は途中で捨てた、今は金属バットが杖と化してる。
とぉおおおおおおおおおくの方でさっき捨てた鉈が太陽の光を反射させキラキラと輝いてるのが見えるあたり、同じ道をループしてる可能性はないが、そろそろ嫌になった。
「…もういい、休む」
そう言うと征菜は近くの立岩の影に座り込み、とぉおおおおおおおおおくの方で輝いてる鉈を眺め出した。
「…輝いてるなー、一昨日の校長先生の頭みたいだー」
今となっては遠い昔のようだ…。
…気が付くと僕は、デカイいびきを鳴らしながら寝ていた。


「…あのー、そんなとこで寝てると風邪引きますよ?」
「・・・・・・・・・。」
…寒い。目を開けたくない。もっと寝ていたい。
「…しゃむい…」
寝起きの舌は上手く回らない。
「そりゃぁ、そんな格好ですし…その、中、見えてますよ」
「・・・・・・・・・。」
…そういえば僕はどっかのバクの格好でした…パンツとかいいよ…どうでも…。
「…すやすや…」
「だから風邪引きますって!とりあえず目を開けてください!」
…うるさい。そして寒い、さっきまで暑かったのに寒い。そうか夜か、昼間の荒野で寝たはずが何時の間にか夜になったんだ、通りで寒いわけだ。
「…寒い」
「じゃあ起きてください」
…お節介な娘だ。まだ姿は見てないが声で分かる。しかし確かに寒い。
「…くうっ、くぅぅー…」
僕は起きた時、軽く伸びをしかからではないと調子が出ないのだ。というわけで軽く伸びたあと、いやいや目を開け…
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・?どうしました?」
…たぶん最初のシーンより驚愕の表情だっただろう。
開けたばかりの目はこれ以上ないくらい開き、口は半開きを超越し顎が外れそうになった。
そして僕はどうしても叫びたくなった。
「…なっ」
「な?」


「…なんでお前なんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」



…僕が目を開けると、そこには灰色の大きな布に身を包んだ少女がいた。
長くクリーム色の髪はふんわりとウェーブを描き、僕より大きいであろう身体で屈んでこちらをじっと見ていた。

…誰がどう見ても我らが糸文 彩である。

「ななな、なんですか急に!?大きな声出さないでください!ビックリするじゃないですか!」
よく聞けば確かに彩の声だ、ただ少し前より可愛らしい声な気もする、それにこの口調だ。分かるか馬鹿。
「えーと、糸文彩さんですよね!」
思はずこっちまで変な口調になってしまった。
「え!?なんで私の名前知ってるんですか!?」
やっぱりだ、しかしなんだこの態度、明らかに動揺している。なんだ、どうなってんだ。
「ええと、で、でも!『アヤ』は『アヤ』ですけど『イトフミ』なんて知りません!」
「…は?」
「だから、私は『アヤ』です。それ以下でも以上でもないです!」
「そんな…」
…人違いか?いや、こいつはどう見ても…。
「…うっ」
「う?」
「上から87 ななじゅ「なんで私のスリーサイズ知ってるんですかぁあああああああああ!!!!」
やっぱ本人やん。


…それからいろいろ話をした。

とりあえず僕が何故あそこで寝ていたかの事情を話した。信じてもらえないかと思ったが思いの外あっさり信じてくれた。
後は芋ズル方式でなんで僕が彼女の名前とスリーサイズを知ってた理由も理解してくれた。最初は戸惑っていて「ごめんなさい、覚えてないです…」と来たもんだ。
あんな風に言われてはこっちが困る、なんとか謝るのをやめさせ、僕は彩とアヤを全くの別人として扱う事にした。
しかし『アヤ』と名乗る彼女はやはりどこからどう見ても僕のよく知る『彩』だった。
無駄に胸は大きいふとももはむちっとしてるし相変わらず僕より身長でかいし髪はフワフワだし…。
でも中身は彩とは違った、相変わらずの丁寧口調でいちいち「ごご、ごめんなさい!」って謝ってきたりボケても素で「え!?そうなんですか!?」とか聞いてくるし、やりにくい。
しかも彼女は、自分はこの先の集落ずっと前からのんびり住んでいたと言っている。んなアホな。
それから僕の前にも何人かその集落に訪れ、そのまま住んでる人が居るらしい。僕はもしかしたらと思い、彩(?)とその集落に行く事にした。

「あ、そういえば…」
「は、はい、なんでしょう?」
一通り聞き終わるとしばらく無言で歩き続けていたが、一つ気になる事があった。
「なんで僕を見つけたんだ?あんな所に用はないはずだけど」
「ああ、その事ですか…」
アヤの住んでいる集落までは更に4kmほどあるそうだ、あんな何もない所でなんで…。
「…私、1人で散歩に出かけるのが好きなんです」
「こんな夜中に?」
空には全く雲がなく、星が物凄い綺麗だ。歩き出してしまえば特に寒さは無く、ぐっすり寝た分足取りも軽い。
「ええ、…変わってますよね?」
「…変わってるね」
「うう、そこまではっきり言われると傷つきます…」
見た目は彩なのにこの態度である。だんだん慣れてきたけど。…あ、流星。
「…あー、僕も変わってるから問題ない」
「…はい?」
僕より背の高いアヤがわざわざこっちを向いて聞いてくる。これは彩でもしたかもね。
「僕も夜中の散歩は好きだよ、特に田舎の夜は素晴らしい。星は綺麗だし涼しくて空気が綺麗、それでもってタダ!たまーーに見知らぬおじいちゃんとかに出会って喋ってみたり新しい道を見つけたり、自分だけの絶景ポイントを見つけたりとかね。夜だから人に会うことなくてのんびり出来るし!それから前の日の夜にいっぱい歩くと次n「長いよ!流石に聞き飽きたよ!!」
ああ、止められてしまった、残念、まだ2割くらいしか喋ってないのに…。
「…と、とにかく、僕も夜の散歩は好きだから、そんなに気にする事はないよ!ね!」
僕はいつもの得意の笑顔を振りまく、7割本気の3割演技で。
「あ、えーと、はい!やっぱ夜のお散歩は楽しいですよね!普通ですよね!よかったー!私1人かと思ってた~」
どうやら素で喜んでるようだ。ぴょんぴょん跳ねながら僕の周りを超笑顔で回ったり無駄に疾走してみたり、可愛くないと言えば嘘になる。
「あ!そうだ!今度2人で散歩行きましょう!絶対ね!」
「はいはい分かった分かった、その前にどうやって元の世界に帰るかだ」
「あ、そうですよね…向こうの人たちにも会いたいですよね…変な事言ってごめんなさい!」
アヤは思いっきり頭を下げる。こういうのを見るのは気分が悪い。
「いいよいいよ、今度一緒に行こうね、夜の散歩。ま、既に今してるような物だけど」
「あ、そういえばそうですね」
「ははははは」と2人で笑う、こうしていると彩と変わらなかった。一瞬「こっちも彩でもいい」と思ってしまった、危ない危ない…。
「ははは…あ、そういえば、私も一つ聞いていいですか?」
「ん?なに?」
「ええと、君の名前、まだ聞いてないです」
「あ、そうだったね、僕の名前は…」

「…氷冷征菜だ。『せーな』って呼んでくれ!」
今度は99.8%演技の笑顔を振りまいた。


「ええ、せーなさんですね!分かりました!」
「いや、普通にせーなでいいよ…」
この丁寧口調は彼女の中のルールかなんかなのだろうか…。
「…あ!あれですあれ!私たちの町!見えてきました!」
「む?ああ、あれか…」
…アヤが指す先には、まさに西部劇のような、小さな西部開拓時代の頃のアメリカみたいな町があった。



…どうやら町の名前は『ジレント』というらしい、入り口に書いてあった。一本聞き間違えたらジオングになってしまう。
西部の町と言えば、酒場とか無駄に偉そうな経営陣とか貴族の女とか居るイメージだったが、ここは本当にのんびりとしていた。
酒場はないし保安官的なのも居ない、誰が知事だとかそういうのも割とアバウトらしい。本当にいいのかそれで。
アヤ曰く、ここは開拓者の宿のような場所らしい。といっても開拓者が来ることは殆どなく、来ても何もないためすぐ帰るらしい。この町に住んでる開拓者は何人か居るらしい。
これはタイムスリップした可能性が出てきた。ざっと1880年代後半だ。西部開拓時代末期。こんなにのんびり出来たのはその辺くらいだからな。
…もしかしたら、この町は開拓者の出来損ないみたいのが集まってるだけかも。
その町の一角の石造りの家に僕は案内された。
「…ただいま~、たぶん母さんたちはもう寝てるから、静かにね」
言われるがまま僕はそーっと家に上がり、階段を登ってアヤの部屋に入れられた。
「うちは宿屋なの、母さんには明日紹介するね。適当に水汲みでも手伝えば食事くらいはくれると思う。部屋はここでいいわ。とりあえず今日はゆっくり休んでって」
なんと優しい。感動した。明日からは忙しくなりそうだけど。水汲みとかした事ない。
と、そういえば昼間から何も食べてなかった。気付けばかなりお腹が空いていた…。
「…あう~」
「?どうかしましたか?」
「…いや、お腹空いた」
「あ…」
やばい、意識したら余計に空いた、思えばめちゃくちゃ歩いたな、うん、でも何も食べてないや、…死ぬ。
「ちょ、ちょっと待っててください!いま何か持ってきます!」
そういうとアヤはすぐに部屋を飛び出し、20秒後にはパンを持って帰ってきた。
「パンしかありませんでした」
流石西部だなおい。
「…米がないならパンを食べればいいとは…まさにこの事…いただくよ」
「?」
…その時食べたパンは、硬くてしょーもなかったけど、最高に美味しかった。
「もぐもぐ…ていうか、さっき言ってたけど、本当にこの部屋に住んでいいの?いつ帰れるか分からないのに?」
「うん、いいよ。別に気にしないですから」
アヤは着々と寝る準備をしている、この時代はそこまで寝間着とかそういう文化がないらしい。着替えはしないようだ。
…いや、アヤが寝間着で散歩してたのかも。
「私まだ15才だもん、それに私そういうの気にしませんし」
逆に気にする年では、いや、この子の場合天然か?
「ああ、僕も15だよ」
「なら余計ですよ~、同い年の女の子が一緒に暮らすくらい何ともないです!」
…まぁ、そう言われればそうかもな…。


…ちょっと待て。


「あ、明日からは毛布か何か用意しますんで、今日は一緒のベッドでもいいですか?」
わー、なんて優しいんだー、そうだよねー、女の子どうしなら大したもんだいじゃないよねー(棒

…帰るまでの間、僕は女の子になる事にした。



次の日からは大変だった。
アヤの母は、彩が少し老けて小さくなったみたいな人で、最初はアヤを起こしにきたら僕が居て驚いたようだ。
しかし凄く優しい人だった。流石に本当の事を話すわけには行かず、道に迷って帰れない。自分がどこの国の者かも忘れた。っていう事にしたところ、すんなり分かってくれた。
なるほど、蛙の子は蛙とはよく言ったものだ。
…しかし、1つ馬鹿でかい問題があった。
「…おはよー、今朝はなんだか騒がしいねぇー、お客さんでもきて…あ」
一階の宿のロビーのような場所でアヤとその母親と話していると二階からまたそいつが現れた。
そいつは僕の顔を見るなり階段の途中でピタッと止まり、僅かに驚きの表情を見せていた。
すかさずアヤが「あー、あれ妹ですー」っと説明してくれたが、される前に分かった。コンマ4秒くらいで分かった。
…斬矢だ、どう見ても、ただ違うのは右眼の眼帯が左眼に着いてる。めちゃくちゃ違和感ある。
「…キリヤです!こんにちわ!」
キリヤは凄い明るかった、違和感やばい。
しかしアヤが居た時点で薄々気付いては居た。「こいつに妹とか居たらどうしよう、絶対斬矢出てくるよ…」ってな。
そして案の定これだ、もう何も怖くないとか言いたくなるレベルだ、この調子だとナギとりーなも出てきそうだ。ていうか出るなこれ。


それからの毎日はもう大変だった。
アヤのお母様からは店の掃除と簡単なお使い、それと表の井戸からの水汲みを頼まれた。
お母様は「最近お父さんが腰を痛めちゃってねー、助かるわー」と言っていた。
なんだそんな事かと思ったが、これがやばい、死ぬ、どれくらいやばいって帰る方法も考える暇も糞もないくらいやばい。
まず一日3回の水汲みは井戸から3kgくらいある水の入った木の桶を持ち上げるのがめちゃくちゃ重くて重くて死にそう、腕が爆発する、滑車ないとか聞いてない。
次に掃除はそこまで大変ではないが広い、そこまで客が来ないから汚くはないが広過ぎてやばい。雑巾掛けとかやばい誰からせめてモップくれモップ。
お使いはアヤとキリヤと交代制だからまだいいが、これまた重い!基本的に全部安い時にまとめ買いしてるらしくそれの日に当番だと死ぬ!パン粉とかやばい米俵並み!カートないのか
カート!
夜になればアヤの部屋でぐっすり眠れるが、この町の人たちは早寝早起きの見本みたいな生活スタイルで休みという日が特にないからもう大変のなんの…。
たまに最初の約束通りアヤと散歩に出かけていた。はっきり言って本気で何もないが楽しかった。
こっちのキリヤはやはり元気いっぱいで明るかった、気軽に「やっほーせーなー!今度タイマンやろうぜー!」とか言ってくる、タイマンはやりたくない。

「…あうー、そろそろ死ぬー」
「せーなさんはひ弱ですね~」

ここの人たちは妙に強かった。やはり時代というわけが、キリヤもあの大変な水汲みを軽くやってのけた。恐ろしい。
たまに見かける開拓者たちの喧嘩なんか凄かった、この町にも荒っぽいのが来る時は来るらしい。


…そんな生活が一ヶ月近く続いて、分かった事がいくつもあった。


まず列車だ、この町には駅があった、ジレントにもそれくらいはあるらしい。それに乗ってここに住んでる数少ない開拓者たちは仕事に行くようだ。
食糧とかも乗せて来るようだが、それに乗ってここの地主が来る事もあるらしい。30日に一回来るとかでもうすぐ次が来るらしい。
その地主さんがまた困った人だとか、たまに乱暴したりするし、随分とわがままで凄腕の用心棒が付いてるとか。
正直村の人たちは嫌ってるらしい。
次に町の外だ、何度も散歩してる間に気付いた。
町の外はずーーっと荒野が続いていたが、一箇所だけ獣道があった。
アヤは気づいていなかったらしいが、間違いなく誰かがよくここを通ってるようだ、馬の足跡が所々にあった。誰かは分からないが大きな荷物を運んだ跡もあった。
それから鉄だ、この町には一軒だけ鍛冶屋があった、売ってるのは古臭いピストルと農具だけ。
しかし可笑しい、町の人に聞いてもこの辺りに鉱山はないそうだ、一体どこから鉄を仕入れているのか分からない。しかしあるものはある。
謎だ、列車で鉄を運んでいる姿も誰も見た事ないという、しかし何故かその店の品物がなくなることない…。
もしかしたら、謎の獣道と鍛冶屋は関係あるかもしれない。だがいつ見ても獣道を通る人は居ない、しかし跡だけが残る、不思議だ…。
まだある、やはりここは西武開拓時代当時の西部らしい…が、何故か人々はみな日本人のようなのだ、よく考えたら言葉も通じる。
タイムスリップ説が有力になってきたかと思えばこれだ、わけがわからない、相変わらず戻る方法は全く分からず、ナギたんにはまだ会えずに居た。
…まぁ、僕だけタイムスリップした可能性もあるが…。
最後に、この町ではよく人が消えるらしい。
月に1人か2人、突然呼び出されたように列車に乗り、どこかに行ったっきり帰ってこない、そんなことが続いてるそうだ。



…あと、水汲みが辛い。




そんなある日。



そんなことしているうちに、だんだん僕もこの町の暮らしに慣れてきてしまった。。最悪元の世界に戻らず、ここに住んでしまおうかとも思っていた…。
「…ねぇ、せーなさん」
「ん~、なんだい?よっと」
いつものように水汲みをしていると、アヤが唐突に話しかけてきた。
「…せーなさんは、元々、21世紀の日本って国から来たんですよね?」
相変わらずアヤの丁寧口調は変わらない。
「うん、そうだよ、来たというか、気づいたらこっちに居たんだけどね」
水の入った桶も相変わらず重い。やっぱ定滑車くらいは欲しいな…。
「い、いつかは帰るんですよね?」
「帰れれば、だけどね」
問題は帰りたいかどうかより、帰れるかどうかなのだ。
「そうですよね…うん…あ、そうだ、今夜また散歩に行きませんか!」
「お、いいね、行こう行こう」
「やったぁー!」
いつぞやの様に、アヤが灰色の布を羽ばたかせながら跳ねて井戸の周りを回り出した。微笑ましい。悪い気分ではない。
…そういえば、ふと思ったのだが、僕が最初に着ていた某夢食いの衣装と金属バットはどこに行ったのだろうか。
二日目にキリヤの服を借り、着替えたっきり見てない。
「あ、あれから私のクローゼットの中です!持って来ましょうか?」
「いや、いいよ、ちょっと思い出しただけだから」
思えば最初出会った時にあの服装だから女の子と間違われたのかもしれない。あれから全く気にしてなかったが、アヤたちの中では未だに女の子扱いなのだ。
…いまさら男って言えないし。
そういえば、1つ気になる事があった。
「…アヤは好きな人とか居ないの?」
「うぇえ!?なな、なんですか急に!」
分かりやすく動揺するアヤ、なんだか思った通りである。
「なんとなく気になったから、ね、どうなの?」
「居ませんよそんなの!だいたいこの町にかっこいい男の子とか居ませんし、私は優しい人が好みなんです!」
かっこいい男の子供どころか人口すらこの町は少ない、ざっと400人くらいである。子供は僕らと僕らより小さいのがあと数人程度である。
「この町だと、二十歳で村を出て、結婚したら帰ってくるのが基本なんです。そんないまから好きな人とか要りません!」
「はいはい分かった分かった、聞いた僕が悪かったよ~」
「もう…あ、でも」
「ん?」
急にアヤの顔が赤く染まり、やや俯き加減になり…。

「…せーなさんが男の子だったら、好きになってたかも」

「…同性愛は、ちょっと」
「…言った私が馬鹿でした」



その日の夜、約束通り僕らは散歩に出かけていた。
いつものように他愛もない会話をしながらただ意味もなく歩いて、頃合いを見て引き返す。それだけで充分楽しい。
「それでー、多分明後日はその地主さんが来る日なんですよー」
「えー、なんだか大変そう」
どうやら明後日は例の地主と用心棒が来るらしい、しかも明後日はそいつらの更に上の偉い人が来るそうだ。
その偉い人の話で僕らは盛り上がっていた。
「その偉い人は、統領って言うんだけど私もまだ会った事がなくて、お父さんから聞いた話だと、未来から来た人なんだって~」
「…未来から来た人?」
…未来から来ただと?…もしかしたら明後日、何か分かるかもしれない。
「…そう、せーなさんもジレントに住んでるんだから知ってた方がいいと思うけど実はその統領が…」
…気づけば僕らは、最初に僕が寝てた場所を過ぎていた。

「…あ!せーなさん!あそこあそこ!」
「ん?何?」
「なんか光ってますよ!いってみましょうよ!」
アヤが指指す先には、確かに何かが月明かりを反射して光っていた。

「・・・・・・なんでしょうこれ」
アヤの瞳は好奇心でいっぱいである。
「・・・・・・鉈だろ、鉈、大鉈」
征菜の眼は久々のジト目である。
「…鉈ってなんですか?」
「・・・・・・・・・。」
その地面に刺さっていたのは、最初に征菜が捨てた鉈であった。そういえば捨てたな。
「…よっと」
征菜は軽く鉈を引っこ抜くと刃先を確認する、まだ錆びてないな。
軽く引っこ抜けたあたり、僕はジレントで暮らす間にかなり力が付いたようだ。
「鉈っていうのはね、こうやって振り下ろして蒔きを割ったり、木や切ったりするのに使うの」
そこらへんの木にぶつけてみる、バシっといい音がして木が倒れる。
「おー、鉈かー、なんかかっこいいねー」
「本気になればアヤとかも切れちゃうよ~?」
「ひぃ!?」
「冗談だよ」
アヤは素で驚いてるようだ、相変わらず弄りやすい。
「何かに使えるかもしれないし、持って帰るかな」
「わ、私は切らないでね…」
切らない切らない。

そして帰り道。

「んー、もうちょっと刃先を磨い方がいいかなー」
「せーなさんこういうの好きなんですか?」
「まあね」
男の子はみんなこうですよ、アヤたちには女の子って事にしてるから言わない。
「なんかそうやってると、男の子みたいですね~」
一瞬ぎくっとしてしまった。しかしアヤはそんなつもりはなく、本当に心の底から思ってるらしい。
「僕は普通の女の子だよ、もしも男の子だったらとっくにアヤを襲ってるよーん」
「やーだもう!へんな言い方しないでよ~」
アヤが彩に似てなかったら間違いなくやってるが。それだけで萎える。
「あ、そうそう、お母さんが明日は一日休んでいいって!」
「え、本当!?」
「はい!地主さんが来る前の日はどこもお休みになるんです!だからうちも明日はする事なんです!」
それは言い事を聞いた、これを気にやりたかった事を色々やろう、とりあえず溜まってる物を処理…ではなく。
「…そっかー、じゃぁ明日は~」
「明日は?」
「…よし」



次の日、僕はさっさく昨晩拾った鉈を使っていた。
木を切り、ロープを裂き、穴を開けて括り付けて…。
「…ん?おーいせーなー!何作ってんだー?」
遠くからキリヤの声が聞こえる。喋り方にやはり違和感が残る。
「滑車だよ滑車。本当は動滑車にしたいけど、そこまで材料もないしね」
「カッシャ?」
この町のこの池には相変わらず滑車がなくて本当に持ち上げるのが大変だ、そこでいつか作ろうと思っていたのだ。
「簡単にいうと、井戸の水を汲みやすくする道具だね。キリヤも手伝う?」
「んー、便利そうだけど~、細かい作業は嫌いだ!ばいばい!」
「…あ、そっすか、ばいばい」

それから一時間後、井戸の小屋と滑車はサクッと完成した。
いままで何もなくただロープで吊った桶を持ち上げるのとは桁違いに楽で、町の人たちからも大好評だった。
単純な定滑車だけだが、この時代の人たちには未来の道具のように思えたらしい。実際そうかもしれないね。
「わー!せーなさんすごーい!」
「へっへーん!それほどでも…あるよ!」
アヤからは歓喜の眼で見られてしまった。悪い気分でない。
もっとも自分が楽したくて作ったのだが、結果オーライなり。
「…さて、まだやる事がある」
「えー、私と遊ぼうよー」
「ごめんねーアヤ、また今度ね」
「ちぇーっ」
その時のアヤは、彩と非常に似ていた。

そしてその日、僕が残りの用事を済ますともう夕方になっていた。
明日は地主さんたちが来るということで、その日はただでさえ早いのに更に早く寝た。そんなに地主さんは偉いというが、凄い人なのだろうか。
それとも、今回は地主さんより偉いという未来から来た人が居るからだろうか…。

そして次の日。


例の列車に乗ってそいつらは来た。
そいつら兵士とかは連れずに丸腰でやってきた。
…見た瞬間に悟った、今日は厄日だ。
地主と崇められるそいつは誰がどう見ても女の子であり、金髪ツインテールがよく似合う顔のきつい方でして…
用心棒とやらも女の子であり、真っ黒なショートカットに同じくどころか、更にきつい顔の方でして…


格好は西部風だが、どう見てもナギたんとりーなでして…。


…その偉い人とやらに見覚えはなく、まさに荒野のガンマンという感じの雰囲気のおっさんだった。
とりあえず、おっさんはいいとして、その2人がやばい。

「・・・・・・・・見かけない顔だな、誰だお前は」
「…主任、こいつ怪しい顔してます。ぶっ飛ばしていいですか」
最初は2人して町の人たちと軽くあいさつしていたが、僕を見つけた途端この態度である。
「…ええと、ナギさんですよね?あと、そちらは…リーナさん」
「む?何故私たちの名前を知っている」
金髪ツインテールの方が答える、続いてきつい顔の方。
「主任、主任の本名は門外不出のはずです。やはり怪しい…」
きつい顔の方が更に顔をキツくして睨んでくる、とりあえずその強く握った拳は緩めていただきたい。
「せーなさん、もしかして地主さんたちと知り合いですか?」
「…いや、その、前の世界の知り合いに異常に似てて…」
「前の世界?」
ツインテールの方が言う、説明するのがめんどくさい。
「やはり怪しい、ぶっ飛ばしていいですよね」
あんたはどうせ殴りたいだけだろ。
「まぁ落ち着け、最近この地に住み出した者なら歓迎するとこだが、私の名を知っているとなっては見過ごせないぞ」
「そうだそうだ、やはりぶっ飛ばし「お前は黙ってろ」
この2人は漫才しに来たんだろうか。
「お前、名前はなんだ」
「氷冷征菜だ」
愛称は言わない。こっちのナギはナギとあまり変わらない様子。
するとまた顔の方が
「ふん、聞いたことないな、リーナが名前を知らないのにリーナの名前をお前だけ知っているとは…やはりぶっ飛ば「お前自分の一人称考えろ」
ツインテの方が顔の方を軽く殴る。やはり漫才しに来たんだろうか。
「とにかくだ、貴様のような怪しい奴を放ってはおけん、…ちょっとこっちツラ貸して貰おうか」
ツインの方を言葉を合図に顔の方が一気に詰め寄って来た。アヤはビックリしてすぐ下がったが、もちろん狙いは僕らしく、すぐ距離を詰められ…。
「ちょっと気絶してもうぜ!」
思いっきり鳩尾に拳を食らった。
「っ!せーなさん!」
「せーな!!」
遠くから見ていたキリヤも思わず声を上げる。なんて重い…拳…
「ふん、よし、連れてけ」
「はいっ」
顔の方が僕の身体を掴み持ち上げようとする、…だが。
「…残念、腹式法は一通りやってるんでな。もう2秒拳が速かったらよかったな」
「なっ!?」
リーナは思わず手を離し、その瞬間を狙って右足を前に出して左手を引く、そして早口で言ってやる。
「近距離からの攻撃で腰が入ってなかった、なにより気絶させるだけの気を抜いてた。…攻撃ってのはこうやるんだよこのアマが!!!」
左足から右足に一気に体重移動をして驚いて力の抜けた相手の腹に思いっきり左手を叩き込む、
昔知人に教えてもらったやり方だ。もし相手が不意打ちで腹に決めて来たら気合で耐えてやられたフリをしたのち、相手が気を抜いたら叩き込む、不意打ちの不意打ちさ。
リーナは綺麗な放物線を描きながら斜め後ろに立っていたナギの方に飛んでいった。こっちのリーナはりーなより何倍も弱い、それにウザい。
「ぐほぉっ!!何をやっておるのだリーナ!!用心棒をクビにされたいのか!!」
「いてて、待ってくれ主任!あいつ変なんだ!!統領と同じ戦い方したんだ!!」
何言ってんだあいつら。
「…す、すげー!せーなすげーよ!」
わーい!キリヤが褒めてくれた!
「えっへん!昔少林寺拳法をやってたからこれくらい朝飯前だ!!」
地主の用心棒殴っちゃったけど、地主さんに当たっちゃったけど。
「くっ、おいお前!こんな事して許されると思ってるのか!!」
地主さん(ナギたん)が吠える、負け犬の遠吠えなり。
「うるせー!地主なんて名前ばっかりのワガママお嬢様が!」
「なっ!」
まさかの町の人からの批判が。
「統領の娘だからって調子に乗るな!」
「そうだそうだ!!帰れ帰れ!!」
「お前ら…!!リーナ!!こいつら全員ぶっ飛ばしてやれ!!」
「やだよー、またそこの奴にやられたくないしー」
そこの奴とは失礼な。
「…あの地主さんね、本当は嫌われてるの、あの用心棒さん使っていままで私たちを脅してたの…」
「…なるほどね」
その用心棒(りーな)が使えなくなって地主さん(ナギたん)は泣きそうである。なんだろう、ナギたんなのに全く可哀想とか思わない。
「うう~!!ええい役立たず!!帰ったらお仕置きだからな!!!逃げる!!!」
「ああん畜生!!!!!!待ってよ主任ん!!!!!」
2人は物凄い勢いで走って列車の中に逃げ込んでしまった。あいつらって運動音痴じゃなかったっけ。
…とにかく、これでみんなの嫌いだった地主さんは居なくなったわけだ。
地主が列車の中に消えた途端に町は歓喜に包まれ、僕はヒーロー的雰囲気になっていた。
…ま、悪い気分ではないね。
しかし1人忘れてる気がする。なんかこう、あんまり個性ない人…。


「私の娘を泣かすとは、君、未来から来た人だね」


そうださっき統領って呼ばれてた人だ。なんか僕らがぎゃーぎゃー言ってる間に井戸の方に言ってたんだよ。
「あ、と、統領」
「ご、ごきげんよう…です」
「調子はどうですかな…?あは、あははは…」
みんなの顔が笑ってない、なるほど、こいつが本気でここの1番偉い人なのか、ついでにいえば、未来から来た人。
「…アヤ、あれが地主より偉い人?」
「た、たぶん、私は見たことないから…」
いやま、雰囲気的に絶対そうだけど。
「あの井戸の滑車は君が作ったのかい?」
ヒゲの濃くて顔の堀の深いおっさんである。
「うん、僕だよ、おっさんも21世紀から来たの?」
「いいや違う、この時代の人間だ。しかし私はタイムマシンを作ったのだ」
「なんのために?」
なんだ、こいつが黒幕か?
アヤや町の人たちはそわそわこちらを見ている。
「私の計画を聞きたいかい?」
統領と呼ばれた男の顔には怒りが浮かんでいる。
「…いや、もう知ってるね。多分僕の考えたのであってる」
「………ほう、ならば…





二日前のあの散歩した夜、僕はアヤからこんな話を聞いた。


「…統領は、表向きは普通の地主をやってて、でも実は科学者で、いろんな研究してるの」

その研究の内容は誰にも分からないそうだ、だが、一つだけ分かることは兵器を作ってるらしい。
その兵器がこの時代には絶対ないような、むちゃくちゃな兵器らしい。
材料も技術も未来の物としか思えない、だから未来から来た人なんて呼ばれている。
そんな噂があるから、確かに今の生活には満足してるけど統領には逆らえないしいつか何かするのかと心配で心配で…

だそうだ。


僕は考えた、仮に本当に未来から来た人だとしたら、つまり僕と同じ立ち位置で、しかも自由自在に未来と過去を行き来出来て科学者で兵器を作れるとしたら。
…答えはすぐでた、僕ならその未来の兵器を使った世界征服でも考えるね。
世界といわず、国一個くらいは間違いなく侵略出来そうだ、それこそ100年くらい前なら今の兵器で絶対に勝てるからな。
それこそ自分1人と言わず、未来の世界から頭のいい奴を連れてきたらもっと楽に侵略出来る。そういうことだ、
過去と未来の出入り口はあの謎の獣道の先、鍛冶屋は研究所かなんか、列車はカモフラージュと出来た兵器の移動。ついでに簡単な農具と武器を鍛冶屋で売れば研究費がたまる。



結果はちょっと違ったがな。






…私はこの時代で偶然にもタイムマシンを作ってしまった。私はもともと軍部も研究員、どうしたものかと悩んだ結果思いついた、未来から兵器を持ってきて使えば絶対に勝てる!そう考えたのだ」
だんだん怒りの色が濃くなる。
「さっそく未来から兵器を持ち込み、ついでに材料も持ってきて、君の言う通り鍛冶屋の地下で武器を製造した!しかし1つ問題が発生した」
統領は拳を握った。
「私には未来の兵器は流石に扱えなかった、そこで考え、思いついた!遠い未来人の脳をコピーし、現代の民衆に移せばいい!私は元々地主だ!人は沢山居る!!私は沢山の科学者をコピーした!ただ連れ込むだけでは未来から気付かれるため未来の人間をコピーし現代の民衆に移し働かせたのだ!!!」
話を聞いている町の人たちからも怒りの色が見え始める。
なるほど、それで言葉も通じるし日本人っぽかったのか。
「そして私は、最後の締めに、あのナギとリーナのコピーを連れ込んだ、ナギは天才だったからな、リーナはおまけみたいなもんだ、民衆を黙らせるのに丁度よかった。ナギに最後の研究をさせ、遂に研究を終わらせようとしたのだが…」
あんたさっきから失敗多いね。
「…三人ほど余計なコピーが混ざった、君たち三人だ」
統領は僕とアヤとキリヤを指差してた。
「時間差で君たちが紛れ込んできた、しかし私はゼロから人を作る技術も手にしていた。仕方なくアヤとキリヤはゼロから人を作り、それに移し新たにこの町の住人にすることにした。そのうち他の科学者を移そうと思ってね。しかし、君は違った、普通ならコピーが来るところを本人が来てしまった、どうしようもなかった、しかも大事なナギを使い物にならなくしてくれた…」
…いまこいつ、ナギたんを物扱いしたよな。
「いままでは私の計画に気付いた者はすぐ洗脳していたが、君はどうしようもなく計画に気付き、放っておけば民衆に話すであろう、その癖バカならまだしもリーナより強く頭が冴えていた。町から遠くの地に捨てたのに結局来てしまった。本当にどうしようもなかった。もう少しで完成するはずだった私の研究を…世界征服を…よくも…よくも!!」
「思いっきり逆恨みじゃねぇーか!!」
「そうだそうだ!!しかも俺たちを洗脳してたってどういうことだ!!」
町の人たちが遂に切れる。
「…じゃあ、私はせーなさんの世界の彩さんの、コピーってこと?」
「ああ、通りで似てたわけだ。しかしこの町で過ごすうちに洗脳で昔の事は忘れ、性格も変わったってことだ。いくら過去で起きたことでも許せない。しかもこの僕を無断で連れ込むだと?ざけんな時間を返せ」
「ええい黙れ黙れ黙れ!!!既に私の兵器たちは完成寸前!!いままでに出来た兵器で十分だ!!!貴様ら全員皆殺しだ!!!!」
統領はそういうとその場を飛び出し、鍛冶屋の方へ走り出した!
「待て!!!!みんな!!統領を捕まえろ!!!」
誰かがそう叫ぶと他の連中も「おお!!」と走り出した。
「え!?え!?どど、どうしよ!皆殺しだって!!せーなさん!!」
本気で慌ててる人が一名。それもそうか。
「…慌てない慌てない、これなーんだ」
そう言いながら僕はポケットから一つ、デッカくて丸いスイッチの付いたリモコンを取り出した。
「…なにそれ?」
「リモコン、RDXの起爆装置」
「あーるでぃーえっすく?」
統領の足は無駄に早く、誰も追い付けない様子。
「ま、押せば分かるよ、耳抑えてて、21世紀の理系男子を舐めるなよっ!」
そう言いつつ僕がリモコンの唯一あるボタンを押すと…




統領の目の前で鍛冶屋が爆発した。






それからは意外とあっさりとしていた。
僕が昨日の昼間に仕掛けておいた爆弾たちは思いの外綺麗に爆発したらしく、地下の研究所を全部陥没させたらしい。
統領は泣きながら地面を掘っていたが、間もなくして、町の住民によって確保された。
列車内からは「全く、お前のせいでこんな目に…」とか言いながらリーナを泣きながら殴り続けるナギが発見され、そのまま列車で島流しになったとか。
統領はその後、怒れる人々によってボコボコにされた挙句、最後は打ち首にあったとか、そりゃぁ、世界征服とか皆殺しとか言ってましたし。
ずっと町の人たちを悩ませていた統領も地主(ナギ)とこの用心棒(リーナ)が爆破…ではなく、居なくなり町の住民たちは、ただでさえのんびりしてたのに更にのんびりしだした。
自分たちが実はただの作られた人間で、記憶と統領に捏造さてた物と知っても全く気にしてないようで、これからは自分たちで子孫を築いていくとか下ネタ言ってた、多分そういう意味じゃないけど。
なかには本当にこの町で生まれて一度も統領に捕まらず、この町で育った人も居るらしい。
…それで僕はというと


あれから一週間後のある夜、僕は最初の夢食い衣装に身を包み、馬を借りて、町を出る準備をしていた。

「…ねぇ、せーなさん」
「ん?なんだいアヤ」
「…やっぱり、帰るの?」
…夜のうちにこっそり抜け出すつもりが、この娘、いつもの散歩のノリで起きてたようだ。
「…そりゃあ、向こうが本来住んでた世界だし、アヤたちはいままでのように元気に暮らしててよ」
こういう時、無駄な事は言わない、これぞせーなクオリティ…。
「…やっぱ過去と未来の出入り口は、あの獣道の先らしい、あそこを真っ直ぐいけば帰れるみたい」
「…最後の散歩行かない?」
「………いいよ」



借りた馬はやっぱり返し、僕らは2人で何時ものように夜の散歩に出かけた。
…ただ、帰りは1人かもしれない。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
互いに交わす言葉が浮かばない。最初からこっそり抜け出す気だったから考えてなかった。
「……星が綺麗だね」
「…そうですね」
…続かない。
何故だろうか、ほんの一ヶ月ちょっとしか過ごしてないのに、何故か別れ惜しい。
元の世界に帰りたいけど、帰りたくない。同じ『彩』が向こうには居るのに、『アヤ』と別れたくない。
…遠くの方に、白い壁のような物が見え始めた。
「…アヤはさ」
「…はい」
なんとか言うことを探す。
「アヤはこの時代の人間だから、僕が向こうに行ったら、絶対会えないでしょ」
「…はい」
分かってるけど言えない事をあえて言う、そうでもしないと、一生ここに居てしまいそうだから。
本当の性別すら教えてないのに、5回か6回散歩に出かけて、ほんの一ヶ月ちょっと一緒に暮らして、僕があの町をちょこっと助けたくらいで…
…徐々に壁が近づく、次第にお互い進むのが遅くなる。
「…それでも、いいよね」
「・・・・・・・・・。」
アヤは半分泣いてたと思う。
「……会えなくなるけど、しょうがないよね」
僕は多分、泣いてたと思う。

僕は笑う演技は出来るが、泣く演技は出来ない。

「………はい。さようなら…です」


…多分僕は、止めて欲しかったんだ。

一言、「いかないで」って、言われたかったんだ。

向こうの世界に帰りたいしこっちにも居たい。自分では決められないから、誰かに決めて欲しかった。止めて欲しかった。

…僕は天性の弱虫さ、どっかの歌のようにな。


真っ白い壁が、目の前まで来た。



「…多分これに飛び込んだら、それで最後だ」
ここまで殆ど無言で歩いてきた、ざっと2時間くらいだ、苦ではなかった、もっと続けとも思った。
「……アヤ、何か、最後に言いたい事…ある?」
「………………。」
アヤは下を向いたままだった、
「…………せ、せーなさ…ん…」
「…最後くらい、さんは辞めてくれるかな」
「……せーな……くん……」
そっちかいな。
「…………ぅぅ…ふぇい!」

…不意にアヤは、僕に抱きつくと、そのまま僕の唇を奪った。

「……ぷはぁ…」
「……え…?」

最初は何があったか分からなかった、でも、知らされた。

「…最初からせーなくんが男の子って知ってました!それで最初…ええと、最初からではないかな、と、とにかく、せーなくんの事大好きでした!」
「………そりゃ……ど、どうも…」

…そう言うとアヤは、僕を壁に向かって突き飛ばした。

「っ!?アヤ!!!」
…恥ずかしなら、間違いなく僕は泣いていた。
「…さようならせーなくん!!!!向こうの私によろしくね!!!!!それと…!」








「……本当にありがとう」











………僕も大好き…だった…










視界が真っ白になった。真っ白な壁に突き飛ばされたのだ、当然かもしれないが、僕にはその白が、憎たらしく見てた。














気付くと僕は、自室のソファで寝ていた。
電気はついたまま。
テレビには例のSF映画が流れている。
右肩にはナギたんが寄っかかって寝ている。
左手には携帯を持ったままだ。
時計を確認する、午後10時27分。


…夢…だったとでも…言うのか…?


全て覚えている、広い荒野、のんびりとした町、優しいアヤ、妹のキリヤ、綺麗な星空、いやな統領と地主(ナギたん)とその用心棒(リーナ)…

ぼーっと放心状態が続く、SF映画の効果音がうるさい、僕はキレ気味にテレビを消した…。
















…いや、夢じゃねぇーや。











テレビに写った征菜の顔には、涙の跡があったという。














ーーーーーーーエピローグーーーーーーーー



ナギが目を覚ました時、征菜は彩に電話をかけていた。
なんか「ありがとう!本当にありがとう!!ひっくひっくっ!」とか「明日そっち行くから!!うん!!絶対会いに行くから!!うわぁああああああんん!!」とか言いながら大泣きしてたらしい。
「なんでそんなに泣いているのだ?」
と聞くと、
「ナギには言いたくない」
って呼び捨てにされた。あいつがSF映画見てる間に何があった。
それからあいつの「彩」の発音が微妙に変わった気がする。少し高めの明るい声で呼んでる気がする。
次の日彩の会うなり、
「うわぁああああああんん!!あやぁああああああああああああ!!!うわぅあああああああああああ!!」
って言いながら全力で彩の事抱いてて流石に引いた。
しかも彩が聞いても聞いても事情を話してくれないときた。いくら彩でもこれでは
「なになに!?何があったのよ!?」
と、わけがわからない様子だった。
「にゃぁあああああああああああああ!!!僕が絶対偉くなってタイムマシン作るからぁあああああ!!!アヤぁああああああああ!!!」
「なに!?なんなの!?え!?うわぁあやめてやめて!変なとこ触らないでぇええ!やめてやめあぁはwwwwあはははははwwwwwwww」
…それからしばらくの間、学校でもこの状態だった。
授業中でも
「…うう、どうしてこうなったんだ、ひっくっ、どこで人生間違えたんだ、くぅ、アヤぁ…」
と号泣しているため、もう呼ばれる彩の方の頭が可笑しくなりそうである。
その結果、もはや伝説とも呼べる勢いで征菜と彩の名前が全校生徒に知れ渡り、その後も長い間語り継がれていくのであった。


…結局、私が寝て、あいつがSF映画見てる間に何があったかは、謎のままなのであった…。







END





















































































余談だが、彩の声優さんは後藤邑子さんで、せーなは平野綾でどうだろうか。(
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Author:セーナ
妄想日記書いたりオリキャラのイラスト描いたりしてる。




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